室井尚『哲学問題としてのテクノロジー』

技術は身体の拡張であるという話から、話の多くが情報社会の話に割かれる。情報伝達ネットワークの複雑化と、マスメディアの繁栄。近代では知的主体が技術を用いて環境と対話していたが、現代では情報の氾濫によって人間もシステムの中の記号へと溶けていく…

中島京子『小さいおうち』

山手の小さな洋館の、美しい若奥様と女中。時のふるいにかけられた回想記は、日記の規則的なリアリズムとはまた違って美しい。 その後の故郷山形の暮らしが入ることで話が豊かになったと思う一方、現在の甥の子とのやりとりは少し荒業という感じがした。「お…

井上ひさし『東京セブンローズ』

ひとかけらの大切な記憶を除けば、人の記憶はあっという間に風化してしまう。たとえば、目の前の生活が大変とき、新しい恋を始めたときには。ひと時口にした思考も思想も、深く根を下ろさないものは揺らいでしまう。しかし、書いて残した言葉からは、数か月…

水木しげる 『水木しげるのラバウル島戦記』『総員玉砕せよ!』

『水木しげるのラバウル戦記』 「このあたりはナンバーテンボーイが出そうだ」というので、ぼくが先頭で、銃に弾をこめて歩かされる。 いちばん元気そうだからか、それともまっ先にやられてもよいからというわけかな。 しかし、いちばん前を歩くのは気持ちが…

井伏鱒二『遙拝隊長・本日休診』

このブログをわざわざ読みに来てくれるような人はみんな知っているだろうけれど、井伏は人間の悲哀を書くのがうまい。山椒魚の悲哀を書くのもうまい。そして井伏の悲哀は、どうにも対象の愚かさとともにある。致し方なく愚かな人間が多く登場する。 『遙拝隊…

大岡昇平 『野火』 要約

頁をめくるために目をそむけていた。 主人公の田村は、小説の始まりとともに、生きる望みを絶たれる。戦争も末期、肺病を患った彼にはレイテ島山中の前線に居場所はなく、食糧を持たされなければ野戦病院にも居場所はない。 一章「出発」「わかりました。田…